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コラム 9 ビットコインくん

09 サウンドマネー① かつて貨幣の王はゴールドだった

私たちは現在、貨幣とは当然のように国家によって発行・管理されるものだと受け入れています。しかしこれは、今まで見てきたように、多くの歪みや問題を生じさせている仕組みでもあります。

こうした問題意識から提案されたのが、「貨幣発行の自由化」です。国家だけでなく民間も貨幣を発行できるようにし、その貨幣同士を競争させることにより、より信頼性の高い貨幣が自然と選ばれ、洗練されていくという考え方です。

では、もし貨幣発行の自由化が実現された世界では、どのような貨幣が選ばれるのでしょうか。その一つの答えが、「サウンドマネー(健全な貨幣)」という概念です。

サウンドマネーと法定通貨とビットコイン

まず貨幣には、携帯性(持ち運んで受け渡し出来ること)、耐久性(壊れにくいこと)、可分性(細かく分けられること)、検証性(真贋を確かめられること)、代替性(どの単位でも同じように使えること(100円玉ならどれでも同じように使える))などいった性質が必要です。

サウンドマネーとは、そういった貨幣の特徴に加え、次の二つの特徴が備わっている貨幣だとされます。

1.強制力を持つ権力によって供給が操作されないこと

2.時間を超えて価値を保持できること

この基準に照らして、まずは現代の法定通貨を見てみましょう。

1.供給は権力によって操作されないか?

× いいえ。中央銀行などの国家機関が、政策判断に基づいて供給量をコントロールします。

2.時間を超えて価値を保持できるか?

× いいえ。長期的には通貨の大量発行により価値は目減りしています。

次に、ビットコインです。ビットコインの四つの特徴を思い出してみましょう。

①中央の管理者を必要とせずに

②利用者同士で直接決済ができる

③発行上限とスケジュールが決められた

④電子貨幣

という特徴がありました。

これをサウンドマネーの観点から評価すると、以下の通りです。

1.供給は権力によって操作されないか?①③

○ はい。発行上限(2100万BTC)と供給スケジュールがあらかじめ決まっており、国家や中央機関による操作は困難です。(ブロックチェーン、PoW、マイニングなどいった技術的、ゲーム理論的な方法により、極めて操作が難しい仕組みを持つ)

2.時間を超えて価値を保持できるか?①③

○ はい。供給が限定され、インフレによる価値の目減りを防ぐ設計となっています。

そして、ビットコインは、利用者同士でやり取りができ、携帯性、耐久性、可分性、検証性、代替性といった一般的な貨幣としての性質も備えています。②④

このように、ビットコインはサウンドマネーが持つとされる特徴に適合しています。というより、ビットコインはサウンドマネーの性質をもつように設計されたといっていいでしょう。

価値の保存とゴールド

この比較の中で、ビットコインには備わっているが法定通貨には存在しない2つの重要な特徴、すなわち、「強制力を持つ権力によって供給が操作されないこと」、そして「時間を超えて価値を保持できること」について、さらに考えてみましょう。

これらは、一般的には「価値の保存(ストア・オブ・バリュー)」と呼ばれる貨幣の基本的機能に対応しています。そしてこの価値保存の機能こそ、貨幣が市場で選ばれるための最も本質的な条件の一つであると考えられます。では、なぜ価値保存という性質がそれほど重要なのでしょうか。

まず、私たちの直感的な感覚から言っても、将来にわたって価値を保ち続けるものを手元に置いておきたいと考えるのは自然なことです。来年も10年後も、同じような購買力を持ち続けている資産であれば安心して保持できます。反対に、もしその通貨が1年後には半分の価値しか持たなくなるとしたら、誰もそんなものを持ち続けたいとは思わないでしょう。たとえば、過去にハイパーインフレが起きた国々では、朝に買えた商品が同じ金額では夕方にはもう買えなくなる、という極端な状況すら見られました。

このような場合、人々はその通貨をできるだけ早く、何か実物のモノに交換しようとします。つまり、価値が保存できない通貨は、人々から敬遠され、貨幣としての機能を失っていくのです。

そして実際、歴史の中で貨幣として選ばれてきたものも、価値保存の機能を備えていることが共通しています。その代表例が、ゴールドです。ゴールドは数千年にわたって世界中で貨幣として用いられ、驚くべきことにその価値を今日まで保ち続けてきました。たとえば、ローマ帝国時代に、ゴールドで買えた食料品などの量と、現代、同じ量のゴールドの価格で買えるものを比べると、ゴールドの価値が大きく損なわれていないことがわかります。

これはすなわち、「価値の保存」ということに他なりません。まさにゴールドこそが、長らく「貨幣の王」として君臨してきた理由です。そして現在においても、世界各国の中央銀行がゴールドを外貨準備として保有していることからも、その価値の信頼性が依然として高く評価されていることがわかります。

希少性とストックフロー比率

では、なぜゴールドはこれほど長い間、価値の保存機能を維持できたのでしょうか。その最大の理由は、「希少性」にあります。

ゴールドは、地上に存在する総量(ストック)が限られており、自然界で新たに生み出す手段(たとえば錬金術など)は存在しないとされます。また、毎年新たに採掘される金(フロー)の量も、全体のストックに対してごくわずかにとどまります。要するに「増やしたくても急に増やすことができない」資源なのです。この性質を数量的に示す指標として知られているのが、「ストックフロー比率」です。

ストックフロー比率とは、ある資産の「既存の蓄積量(ストック)」を、「年間の新規供給量(フロー)」で割った数値です。簡単にいうと、その資産がどれだけの希少性を持つか、を示す尺度です。

ゴールドのストックフロー比率は一般に60〜70程度とされ、非常に高い部類に入ります。

シルバーのストックフロー比率は20程度、ゴールドよりはだいぶ劣ります。つまり希少性が下がります。

一般に、ストックフロー比率が高ければ高いほど、その資産はインフレの影響を受けにくく、長期的な価値の保存手段として優れていると考えられます。逆に、ストックフロー比率が低い資産は、供給が容易で、長期的には価値の保存機能が低くなりやすい傾向があります。

このようにゴールドは、極めて高い希少性に支えられ、価値の保存手段として優れており、その特性ゆえに長期にわたって貨幣として選ばれてきたと考えられます。実際、ゴールドはサウンドマネーのもっとも典型的な例とされています。

金本位制、かつてのグローバルスタンダード

しかし現在私たちの日常生活の中で、ゴールドが貨幣として使われることはほとんどありません。金貨や小判で買い物をすることなど、現代では考えられないでしょう。希少性があり、数千年にわたって価値の保存手段としての地位を保ってきたにもかかわらず、ゴールドは現代において通貨としての役割からは事実上、退場してしまっています。

なぜそのようなことが起きたのでしょうか。この疑問を解き明かすために、ここで「金本位制」という歴史的制度について触れておきたいと思います。

ゴールドの弱点

ゴールドは多くの点で貨幣に適しており、歴史に選ばれた「貨幣の王」でした。しかし、それでも万能な存在ではありませんでした。

以下に、金が抱えていた主な課題を整理してみましょう。

① 携帯性の問題(ゴールドは重く、輸送するのに多大な手間とコストがかかる)

② 可分性の問題(分割は可能だが、少額取引用に細かく分けるのは非効率)

③ 検証性の問題(技術的に検証は可能だが、取引毎に行うのは非効率)

④ 盗難・紛失のリスク(高価であるがゆえに、盗難紛失リスクが高い)

このように、ゴールドは希少性という優れた特性を備え、時代を超えて選ばれてきたものでありましたが、時代の変化とともに、その物理的な制約が次第に大きな問題として浮かび上がってきたのです。

兌換紙幣の登場と、金本位制のグローバルスタンダード化

こうした問題点を解決するために、人々が生み出した仕組みがありました。

それが、「銀行 + ゴールド + 紙幣」というセットです。

つまり、兌換紙幣(だかんしへい)の誕生です。

兌換紙幣とは、「紙幣を持っていけば、いつでもそれに相当するゴールドと交換できますよ」という約束のもとで発行される紙幣のことです。この紙幣自体には何の価値もありませんが、その裏に本物のゴールドが保管されていることで、受容性(人々が受け入れる性質)が成り立っていました。

これにより、実際にゴールドを持ち歩かなくても、「その価値を証明する紙」だけで安全かつ効率的な取引が可能になったのです。この「ゴールドと引き換え可能な証明書」こそが、兌換紙幣のはじまりです。

もともとは、あくまで「ゴールドと引き換え可能な証明書」でしたが、これが次第にそのまま日常の決済手段として、金貨よりも使用されるようになりました。

かくして、希少性と利便性を兼ね備えた、最強の貨幣システムが完成です。この仕組みは、元々は市場の中で発生したものでしたが、やがて国家による管理のもとで運用されるようになり、その代表例は、19世紀のイギリス金本位制時代です。またその後、アメリカや日本などといった国々でも、採用されてゆきました。

金本位制が抱える、致命的な問題

金本位制、すなわち紙幣とゴールドの組み合わせによって、かつてないほど便利で強力な貨幣制度が生まれました。

しかし、この制度には、深刻な構造的リスクが隠れていました。その根本にあるのは、「国家を信じなければ成り立たない」という事実でした。

ゴールド自体は主に中央銀行に預けられており、手元にあるのは引換券にすぎません。つまり、ゴールドを持っているつもりでも、実際に所有しているのはただの紙きれにすぎないのです。この構造がもたらす最大のリスクは、国家の都合で、ゴールドを取り上げられる、ということでした。

そして、この懸念は実際に歴史の中で現実に起こりました。1933年、アメリカ、当時の大統領ルーズベルトは、国民がゴールドを保有すること自体を違法とし、強制的にゴールドを政府に引き渡させました。人々の手元には、ゴールドではなく、紙幣だけが残されたのです。

その後、アメリカ政府は紙幣(ドル)を大量発行。結果としてゴールドに対する、紙幣(ドル)の価値は下がり、人々の資産は実質的に目減りしました。つまり、兌換紙幣システムを通じた、合法的な資産没収が起きたのです。この、ゴールド保有禁止の法律は長く続き、アメリカ国民は1970年代まで、約40年間、自由にゴールドを持つことを禁じられました。

もうひとつの問題は、紙幣発行と希少性の問題です。

ゴールド自体は希少であり、簡単に増やすことができません。これこそが、ゴールドが貨幣の王となった、最も根本的な理由でした。

しかし、紙幣は違います。国家にとって、紙幣を印刷するのは簡単です。つまり、本来はゴールドと等価であるべき紙幣が、実際には金の保有量以上に発行することが可能になったのです。

ここで、改めて考えたいのが希少性の意味です。希少性とは、単に数が少ないということではないのです。「供給が制御できない」「増やしたくても、意図的に増やすことができない」という性質こそが、本当の希少性です。ゴールドはまさに、「人為的にどんなに増やしたいと思っても、なかなか増やせない」という意味で希少でした。

ところが、紙幣は国家の意志でいくらでも増やすことができます。「ゴールド+紙幣」というシステムは、実は全く「希少性を持つ貨幣システム」ではなくなっていたのです。

金本位制、完全崩壊へ

そして実際、希少性の崩壊が起こり始めました。アメリカは、世界の基軸通貨としてのドルの供給を大幅に拡大していきました。その結果、各国が保有するドルは、アメリカの保有するゴールドの量を大きく上回る規模に膨れ上がりました。

やがて各国は、「アメリカは本当にこのドルをすべてゴールドと交換できるのか?」と疑いを持つようになりました。各国は、アメリカの金準備が尽きる前に、次々とドルをゴールドに交換する要求を行いました。

しかし、アメリカはもうそれに応じることができませんでした。そして1971年、アメリカのニクソン大統領は、突如として、ゴールドとドルの交換停止を発表します。これが、いわゆるニクソン・ショックです。

この瞬間、世界は大きく変わりました。金本位制、ゴールド+兌換紙幣というシステムは、国際的にも完全に終わりを迎え、歴史は、「ゴールドに裏付けられない通貨=不換紙幣」の時代へと突入していくことになるのです。

サウンドマネー②へ続きます。