インフレ(物価上昇)はさまざまな要因によって引き起こされます。例えば、気候変動により作物の収穫量が減少し、食料品の価格が上昇することがあります。また、地政学的な紛争が発生すると供給が停止し、それによって物価が上昇することもあります。
しかし、それ以上に重要なのは、お金がどのように発行され、流通しているかという点です。
『インフレはいついかなる時でも貨幣的現象である』
と言ったのはノーベル経済学賞を受賞したミルトン・フリードマンです。これは、通貨の発行や流通といった貨幣的要因がインフレに大きな影響を与えるという考え方を示しています。「いついかなる時でも」という表現は極端かもしれませんが、長期的なインフレについて考えた場合、貨幣的要因が決定的な役割を果たすことが多いようです。
まず、シンプルに考えてみましょう
例えば、1つ1万円のケーキがあるとします。高いですね。この値段では、気軽に購入するのは難しいかもしれません。しかし、もし世の中のお金の量が10倍になったとしたらどうでしょう? そうなれば、1万円のケーキも、感覚的には、1000円程度の感覚で購入できるようになるかもしれません。ケーキ屋にみんなが殺到します。
しかし、売り手側、つまりケーキ屋からみたらどうでしょうか?ケーキの作れる量は、以前と変わっていません。そのため、いかにお客さんがたくさん来ても、全員に売れるわけではありません。だったら、ケーキ屋は、ケーキの価格を引き上げるでしょう。例えば、一個、10万円にするかもしれません。
そうなると、結局、最終的に、ケーキの価格が10万円になれば、価格だけはあがっていますが、結局、元と同じ状態になります。お金が増えたら、価格が上昇する、という、ごくシンプルな理屈です
実際の経済では、このように単純なことはありえませんが、「世の中のお金が大量に増えると物価が上昇する」というのは直感的に理解しやすい現象ですし、基本的には実際に成立することです。様々な例外はありますし、色々な言説や理論でわかりにくくなっていますが、基本として「お金が増えれば物価は上がる」、これはシンプルながら強力な前提です。
ところで、お金が10倍に増えたら、と想定しましたが、もしも、お金が増えたのが一部の人々だけであって、私がその一部に入れなかったらどうなるでしょうか?お金が増えた人にとっては、ケーキが多少高くなってもケーキを買えるでしょうが、私はもはや、ケーキなど二度とべられなくなります。1万円でも買えませんでしたが、10万円のケーキなど、一生買えないでしょう。
歴史を振り返ると、国家などの通貨発行主体が大量の通貨を発行し、その結果、物価が上昇、インフレになった、ということが度々起きています。また、恩恵を受ける人受けない人に差ができて、不公平が生じ、持たざる者の不満が高まって革命が起きる、というような事にもつながっていきました。通貨発行というのは、社会に多大なる影響を及ぼすものなのです。
さて、お金が増えれば物価が上がる、というのを前提にしたうえで、先も述べたように、現代の経済・金融システムは非常に複雑で大規模になっています。そのため、お金の量が多少増えたからといって、すぐにインフレが発生するとは限りません。長期的には、物価の上昇につながっていくとしても、短期的に、また局所的には、そうでない場合もたくさんあります。
その例として、次の二つの事例を見てみましょう
まずはリーマンショック後の資産インフレです。リーマンショックとは、2008年に発生した世界的な経済危機です。主な原因は、アメリカの住宅ローン市場(サブプライムローン)におけるバブルが崩壊し、それに伴い金融市場全体が混乱したことでした。
この危機を救うために、アメリカ政府は、金融システムを救済する財政出動を行いました。また中央銀行も大規模な金融緩和政策を実施しました。これはどちらも、市場に大量のマネーが供給されることを意味します。その結果、経済全体の崩壊は回避されましたが、市場に出回るマネーの量が増加しました。
最初のケーキの例のように、通常、お金の量が増加すると、物価が上昇する傾向があります。しかし、リーマンショック後の物価の上昇は比較的緩やかであり、顕著なインフレは起こりませんでした。なぜでしょう?増加したお金はどこへ行ったのでしょうか?
この時には、増加したマネーの多くが株式や不動産といった資産市場に流れたのです。その結果、株式や不動産価格は、大きく値上がりしました。この現象をインフレはインフレでも「資産インフレ」と呼びます。消費や賃金、日常生活の必需品などの価格は、大きく変動しない一方で、株価や不動産などの資産価格が急上昇したということです。特に、GoogleやAmazonといったハイテク企業の株価が大きく上昇し、資産を持つ人々の富がさらに拡大する結果となりました。
ここ数年のアメリカ株最強説の根拠の一つとなっていますね。
続いて、コロナショック後の物価インフレです。2020年、新型コロナウイルスの感染拡大により、世界中でロックダウンが行われ、経済活動が一時的に停止しました。これにより、世界の金融市場は急落し、コロナショックと呼ばれる大規模な経済危機が発生しました
世界中で経済活動に急ブレーキがかかったのですから、各国政府はリーマンショック時と同様に巨額の通貨を発行・供給し、経済支援を行いました。日本でも一人当たり10万円の特別定額給付金が支給されたことを覚えている人も多いでしょう。
この時も増加したマネーの多くは、まずは株式市場や不動産市場に流れ込みました。リーマンショック後の資産インフレと同様です。しかし、リーマンショック後とは異なり、コロナショック後には、昨今の日本のインフレにつながった、急激な物価上昇「物価インフレ」が発生しました。
色々理由はあるようですが、その主因として、以下のことが考えられるようです。
簡単に言うと、需要が激増したのに、供給が追い付かなかったということです。最初のケーキの例と同じですね。
そして、次のようなことがベースとしてありました。
リーマンショックから、コロナショックに続く金融緩和的な世界で、市場の中には、すでに大量のマネーが供給されていました。しかし、コロナ中のため消費の機会が限られていました。また、資産インフレという形で、株や不動産としても蓄積されていました。
これは平たく言えば、使わずにたまっていた資産が市場全体には大量にあった、という事です。それがコロナ後の急激な経済再開で、人々が一気に使うようになりました。その結果が物価インフレです。使えるお金が大量にあることで、ケーキの値段が跳ね上がるのと同じ仕組みで、世の中の様々なものの価格が急激に上がっていったのです。
たくさんお金が、潜在的に、マグマのようにたまっていたからこそ、経済活動が再開した際、急激な需要増加ということが起きたのです。
そしてもう一点、これも重要なのですが、次のような事も起きました。目の前で急速にインフレが進んだ事で、人々の「インフレ期待」が高まったのです。
インフレ期待というのは、文字通り、これからインフレが起きるのではないか、という人々の期待(予想)です。インフレ期待は自己実現的な性質を持っており、目の前で物価が上昇していくと 人々はこの先も、さらに価格が上がっていくのではないか、と思うようになります(インフレ期待up)。
すると人々は、 では値段が上がる前に早めに買っておこう考えます。さらに消費が進むのです。そうなると、ますます需要が高まり、インフレがさらに加速していくのです。
さらにもう一点、このようなコロナ後のインフレは、FRB(アメリカの金融政策を行う中央銀行)の予想を上回るものでした。
当初、FRBは、インフレは一時的なものとして、対応せずにいました。しかし予想外にインフレが進んだので、慌てて急激な対応(歴史的なスピードでの利上げ)という事をせざるをえなかったのです。FRBの対策が後手に回ったことも、インフレが膨らんだ原因とされています。
このようにして、コロナショック後には、需要と供給のバランスの崩れをきっかけに、実体経済の方へマネーが大量に流れたため、ケーキが値上がりしたのと同様に、世界中で強烈なインフレが起きました。
そして、そのベースとなっていたのが、長年、マグマのようにたまっていた、市場に供給されたマネーであり、それを加速させたのが、人々のインフレ期待でした。またFRBは、それを予想することができず、対応が後手に回った、ということもありました。
以上がここ最近の、二つの事例からみる、通貨とインフレの関係です。
さて、リーマンショックからコロナショックまでの約15年間、世界的に金融緩和政策(通貨量を多くする政策)が続き、通貨量が膨れ上がりました。その結果として資産インフレや物価インフレが発生しましたが、こうした流れの中で最も恩恵を受けた資産は何だったでしょうか?
それこそがビットコインです。ビットコインは過剰流動性の申し子、と言われるゆえんです。
ビットコインはインフレヘッジの資産とも言われますが、正確にはインフレを引き起こしうる、過剰な通貨量(過剰流動性)に対して、最も敏感に反応する資産でした。
実際にインフレが強烈に起きている最中(2022年など)は、金利の上昇などもあり、価格はむしろ下落していましたし、通貨量の増加が行き過ぎた結果として起きるバブル崩壊時には、しばしば価格下落の影響を受ける傾向があります。(ただ最近、ビットコインは、インフレ時や危機の時も強い資産、という新たなナラティブも形成されつつある印象です。今後、さまざまな局面でも強さを発揮する資産へと進化していく可能性もあります。)
つまりこれまでのところ、インフレやバブルを引き起こす、国家の過剰な通貨膨張政策に、最も鋭敏に反応する資産、というのが、ビットコインの姿でした。
それは、ビットコインの根本をなすと考えられている思想とも一致しています。ビットコインは、国家による大量で、ときに制御の効かない通貨膨張政策に対するアンチテーゼであり、そうした通貨膨張に対するリスクヘッジ(自己防衛手段)と捉えられているのです。
そして今後はどうなるでしょうか?通貨はどうなっていくのでしょうか?未来のことはわかりませんが、歴史が示しているのは、法定通貨は、常に膨張し続ける宿命にあるということです。
なぜそう言えるのか、という事は今後のクイズに出てきますので、引き続き、ぜひお楽しみください!