現在、私たちは歴史の大きな転換期にいるという見方があります。今回は、そういった「歴史の転換」というテーマに絡めて、特にビットコインに関連する金融、経済の視点からお話ししたいと思います。
現在、世界ではどのような現象が起きているのでしょうか。それは、これまで世界を支配してきた覇権国が衰退し、それに代わる新たな挑戦国が台頭してきているという状況です。具体的には、覇権国アメリカが陰りをみせる一方で、その対抗馬として中国が発展してきている、という構図です。
アメリカの絶対的覇権の陰りを示す兆候として、例えば次のようなことが挙げられます。
まず経済面では、かつてのような圧倒的な成長力は弱まり、長期的にはアメリカ一強の時代は終わりつつあるといわれています。新興国経済の急成長やグローバル市場の多極化が、アメリカの相対的地位を押し下げつつあります。一方で、国家債務(借金)は急増しており、その金利支払い額は、国防費に匹敵する規模に達しています。財政赤字が常態化し、借金を重ね続けることは、国家衰退の典型的な兆候とされています。
次に、貧富格差の拡大と社会の分断です。GAFA をはじめとする巨大テック企業が莫大な利益を上げる一方で、多くの労働者層や中間層は取り残され、格差が拡大しています。歴史的に見ても、富の格差は社会分断の引き金となり、貧しい層の不満が高まることで、社会の安定が揺らぎます。現在のアメリカは、単なる格差だけではありませんが、深刻な分断が進行し、国内の安定を脅かしています。
アメリカの相対的な地位の低下と並行して、新たな挑戦者として台頭してきたのが中国です。中国はここ数十年、驚異的なスピードで生産力を向上させ、低コストで大量生産を行う力を武器に、「世界の工場」としての地位を確立しました。かつては「中国製=粗悪品」というイメージもありましたが、今では高度な品質、性能を備えた製品を次々と生み出しています。IT や人工知能などハイテク分野でも目覚ましい成果を上げ、欧米企業に匹敵する競争力を獲得しています。軍事面でも中国は急速に進化を遂げており、アジア太平洋地域における重大な脅威となっています。 このように、アメリカが衰退へと向かう一方で、中国は強大な力を蓄え、覇権国への挑戦者として、大きく台頭してきているわけです。
アメリカが長く覇権国として君臨してきた背景には、経済力や軍事力だけでなく、基軸通貨「ドル」という特別な地位の存在がありました。基軸通貨とは、国際貿易や金融取引において、世界各国が共通して使用する通貨のことを指します。この基軸通貨を持つ国は、他国にはない経済的な特権を享受します。
代表的なものは、自国通貨で世界中のモノやサービスを購入しやすくなるという点です。
たとえば、日本が中東から原油を輸入する場合、通常は円ではなくドルで支払います。そのため、日本はまず円を市場で売ってドルを購入し、そのドルで代金を支払わなければなりません。しかし、アメリカは例外的に、自国通貨であるドルをそのまま使って原油を購入することができます。
これは、ドルが世界で最も広く流通し、信頼されている通貨であるためです。各国はドルを受け取ることで、自国の商品やサービスを提供することをいとわないのです。言い換えれば、「ドルを発行すれば、世界の富と交換できる」状態が成立しているのです。
さらに、基軸通貨国であることのもう一つの大きな利点は、アメリカの国債を世界中に売ることができる(借金できる)という点です。世界の人々は、ドル建て資産である米国債を「安全で流動性の高い運用先」として重視し、積極的に保有しようとします。そのため、アメリカは他国に比べて低い金利で大量の資金を調達する(安く借金できる)ことが可能であり、これも基軸通貨国にしか許されない経済的優位性の一つです。
要するに、アメリカは、ドルが世界中で使われ、信頼されることによって、自国通貨で取引・借金ができるという圧倒的な優位を享受してきたのです。これが、いわゆる「基軸通貨特権」と呼ばれるものです。
もちろん、アメリカが無制限にドルを発行できるわけではありません。過度な通貨供給は、インフレや通貨の信認低下を招くリスクがあります。それでも、世界でドルが使われ続ける限り、アメリカは比較的低コストで国際取引や財政運営を行うことができます。これが、覇権国アメリカの力の源泉の一つなのです。
しかし近年、このアメリカの強大な力の源であるドル基軸体制に綻びが見え始めています。先に挙げたアメリカの衰退、新興国の台頭、それにアメリカによるドルの武器化など様々な要因が重なり、世界各国、特に中国やロシアといった対抗国では、ドルへの依存を減らそうと動き始めています。いわゆる「ドル離れ」が進行しているのです。 もし世界の国々がドルを使わなくなれば、ドル基軸体制は揺らぎ、アメリカが享受してきた「基軸通貨特権」も失われていきます。それはすなわち、アメリカの国際的地位そのものが脅かされることを意味しています。
歴史的に、覇権国が衰退期に入ると、国内の不満が高まり、政治はその矛先を外に向けて対立を激化させる傾向があります。経済面では「貿易戦争」と「通貨戦争」が典型的に発生し、これらはしばしば同時に起こります。
簡単に説明すると、まず、貿易戦争とは、自国産業を守るために輸入品に高関税を課したり、輸出入を制限する政策です。たとえば 2025 年、トランプ大統領は世界各国に対して大幅な関税を課そうとして、話題となりました。続いて、通貨戦争は、通貨価値を意図的に下げて、これもまた、自国経済を有利に導こうとする競争です。2025 年 6 月現在、明確な通貨戦争は起きていませんが、トランプ大統領は他国の通貨安を非難しつつ、ドル安を望む発言を繰り返しています。
この二つがセットで発生する理由は、根本にある動機が共通しているからです。すなわち、「他国から利益を得て、自国経済を守りたい」という意図です。どちらか単独では効果が限定的なため、貿易制限、通貨安を組み合わせ、より強力に自国へ利益を誘導しようとするのです。
しかし、関税にしろ、通貨安政策にしろ、他国から見るとそれは「不公平な競争」に映ります。その結果、相手国も報復として関税を引き上げたり、自国通貨を安く誘導したりと、同様の措置を取るようになります。こうして政策の応酬はエスカレートし、やがて「貿易戦争」や「通貨戦争」と呼ばれる、経済的な戦争へと発展していきます。
その結果、グローバル化によって効率化されていた世界経済は、自国優先の保護主義へ傾き、経済圏ごとに分断される「ブロック経済」へと向かいます。生産は非効率化し、貿易は縮小し、世界全体の経済規模は縮まり、誰も得をしない状況が生まれます。 つまり、貿易戦争・通貨戦争に基本的に勝者はいないのです。国家間の対立が激しくなればなるほど、国際協調は損なわれ、結果的に自分の国すらダメージを受けるというのが、貿易・通貨戦争のもたらす帰結です。
以上のような国際情勢は、実は、過去にも存在していました。それは 1930 年代、第一次世界大戦から第二次世界大戦へと至る時代です。
当時の覇権国はイギリスでした。19 世紀、イギリスは「世界の工場」として経済を牽引し、ポンドは国際基軸通貨の地位を確立していました。しかし、1914 年に第一次世界大戦が勃発すると、イギリスは莫大な戦費を抱え、国債の乱発により財政は急速に悪化、さらに、植民地支配を巡る内部対立も深まり、国内の分断が進行していました。
その時期台頭してきたのが、アメリカです。第一次大戦の戦禍を免れたアメリカは、急速に国力を伸ばし、1920 年代には、後に「狂騒の 20 年代」と呼ばれる繁栄を迎えました。ただ、その繁栄はバブルとなってはじけ、1929 年の世界恐慌へとつながっていくのですが、恐慌の影響でアメリカも打撃を受けたものの、それ以上に深刻な影響を受けたのは、すでに弱体化していたイギリスや他の欧州諸国でした。
その結果、世界経済は収縮し、各国は自国経済を守ろうと保護主義に走ります。そして始まったのが、貿易戦争と通貨戦争です。
世界各地で貿易制限や通貨切り下げ競争が起こり、経済圏ごとの分断=ブロック経済の時代に突入していきました。イギリス、アメリカ、ドイツ、フランス、日本など、それぞれの経済圏が形成され、相互不信と対立が強まっていきます。貿易は縮小し、世界経済の成長は停滞。そしてその経済的対立の果てに、極端なナショナリズム、軍国主義、ポピュリズムといった流れが生まれ、やがて第二次世界大戦へとつながっていったのです。
さて、現在の国際情勢を振り返ってみると、1930 年代の状況と、かなり似ているように思えます。
覇権国アメリカの衰退
挑戦者としての中国の台頭
自国優先の保護主義政策
経済の分断とブロック化
もちろん、当時と今では時代背景が異なりますが、歴史が繰り返さないにしても韻を踏むのだとすれば、私たちがこれから直面するのは、より直接的な対立、つまり戦争かもしれません。特に、米中戦争の地理的な中心は台湾有事でしょう。日本はその最前線であり、他人ごとではありません。
「戦争とは他の手段をもってする政治の継続である」
といったのは、19 世紀ドイツの軍事学者カール・フォン・クラウゼヴィッツですが、現在の各国の政治が、戦争へと続く道ではないことを祈るばかりです。
さて、これまで見てきたように、世界の分断とともにアメリカ離れが進み、ドル基軸体制は揺らぎ始めています。そして、金融面ではこの動きは、「米国債の売り=金利上昇」という形で現れます。詳細は省きますが、これはつまり、アメリカの借金返済負担が急増することを意味します。
アメリカはもともと、国内分断や国際的対立への対応として、軍事費・産業保護・社会保障などの支出が膨らんでいます。そこに金利上昇が加われば、借金返済のためにさらに借金を重ねる、雪だるま式の財政悪化に陥るリスクがあります。
これまでアメリカが発行する米国債は世界で最も安全な資産とされ、国際金融の土台を支えてきました。 しかし、米国債の信頼が失われ、投資家が一斉に売却し、金利が急騰すれば、金融のアルマゲドンと呼ばれるような深刻な危機を招きかねません。アメリカのみならず、米国債に依存している世界中の金融システムに破滅的な混乱を引き起こすでしょう。
こうした事態を回避するため、アメリカは何としてでも金利の上昇を抑えようとするはずです。そして金利を抑えるには、米国債を買い支える必要があり、そこで最終的に登場するのが、ドルを無制限に発行できるアメリカの中央銀行、FRB です。
FRB がドルを新たに発行し、それで米国債を引き受けるとすると、これは「財政ファイナンス」と呼ばれ、原則的には禁じ手とされています。しかし、現実にはこの手段に頼らざるを得ない状況に追い込まれつつあるのです。その結果、さらなる借金と財政悪化、ドルと米国債の信認低下が進み、アメリカ離れは一層強まります。悪循環です。
仮にもしも、その悪循環が止まらなくなると、その先には、中央銀行の独立性などという言葉が馬鹿馬鹿しくなるような、破滅的な通貨大量発行となるかもしれません。ここまでいくと、「デススパイラル」と呼ばれる、国家衰退の末期症状です。
とはいえ、現時点でそうした極端な事態が起こるというわけではありません。アメリカは依然として世界最強の国家であり、アメリカへの信頼は厚く、ドルに代わる明確な基軸通貨もまだ存在しません。 ここで述べているのは「アメリカやドルがすぐ崩壊する」という話ではなく、そういう最悪の事態を回避、延命するために、アメリカは、中毒性の高い通貨発行を繰り返す道を進んでいる、ということです。
これまで見てきたように、イギリスからアメリカへと覇権が移ってから約 100 年が経ち、世界は新たな転換点を迎えつつあります。アメリカを中心に広がってきたグローバル化と自由貿易の時代は終わりを告げ、現在はアメリカと中国という二大国を軸に、世界が分断へと向かう局面に再び突入しています。
それに伴い、国境を越えた貿易体制や、安価な労働力を求めて海外から製品を輸入する構造が機能しにくくなり、グローバル化が逆流しています。この動きは、すなわち、物資の供給が非効率化し、長年かけて築かれてきた国際的なサプライチェーン(供給網)が滞ることを意味します。 その結果、物資などが手に入りにくくなる状況が生まれ、世界は構造的なインフレに向かう要因を内包することになります。
加えて、アメリカだけでなく、世界各国で進行する財政悪化、それを埋め合わせるための通貨の大量発行もまた、法定通貨に対する信認の低下や価値の下落を引き起こしています。
つまり、物流の側面から見ても、通貨の側面から見ても、私たちはすでにインフレの起きやすい時代に突入している可能性があるのです。
そして、このような状況下において、資産の逃避先として注目されているのが、ビットコインです。改めてビットコインは、国家による恣意的な操作が困難であり、希少性が保たれている資産です。またビットコインは、中央に発行主体を持たず、アメリカにも中国にも属さない、いわば無国籍な資産でもあります。これらの特徴は、不確実性の高い歴史的変化の中で、資産を守るための大きなアドバンテージといえるでしょう。
もし今後、ビットコインの価格が急騰するようなことがあれば、それは不確実な世界の中で、構造的なインフレに対する防衛策、そして、ドルを中心とする法定通貨システムの信頼低下に対する避難先としての役割が背景にあるかもしれません。 近年、ビットコインが急速に国際的な注目を集めている背景には、こうした歴史的転換期における資産防衛の手段としての位置づけがあるのです。